屋内環境の色彩

屋内環境といっても、さまざまな種類や用途がありますが、それらに求められる色彩も時代の成熟化とともに変化してきました。大きな流れとしては、機能や効率、経済性の重視から精神的、情緒的な満足感の重視へと色彩計画のコンセプトが拡大してきたといえるでしょう。また、単純な色記号で色を扱う時代から、組み合わせ方や素材感や手触り、音や香りといった五感的な世界へと広がりを見せています。


住まいの色彩

住宅における色彩は、住宅建築の仕上げ材である床材や壁装材、各種建具や設備機器のほか、カーテンやブラインド、家具といった要素で構成されています。現在ではそれらのほとんどがメーカーから工業製品として販売されています。多くの色や素材、柄のバリエーションの中から、価格や機能も考え合わせた上でコーディネイトするという行為がトータルな住空間の色彩を作り出します。

 


ハウスメーカーやビルダーの設計者、コーディネイターが担当

住宅の色彩計画は、設計者やコーディネイターの仕事のひとつです。まず空間の印象を大きく左右する大面積を占める床と壁の色の組み合わせを決めます。

次に建具や設備機器の色を決め、おおよその空間イメージが定まります。大手のハウスメーカーでは、床材やキッチンの扉、浴室など標準部品として常に何種類ものカラーバリエーションを持っていますが、それらを顧客の要望に合わせて提案する際に、設計者やコーディネイターのセンスが問われます。

また、カタログ写真やモデルルームのコーディネイトにおいても色は重要なポイントになります。ソファやカーテンなどのファブリックの色柄で空間の個性を表現したり、アートや装飾品の色にも気を配らなければなりません。実際に顧客が訪れる住宅展示場やマンションのモデルルームでは、購入する際に家具やカーテンが一緒に付いて来るわけではありませんが、空間の色彩計画は、顧客の住まいに対する憧れや夢を刺激するという点で、大きな販促効果を発揮します。

 

重要性を増す照明計画

住まいの色彩を考える上で、見過ごせないのがライティングです。直接照明と間接照明を上手に使い分け、「色温度」と呼ばれる光の色の効果をうまく利用しながら、空間の特性に合った照明計画を考えることは、住宅設計全体においても、非常に大切なポイントです。これからは住まいにおいてもLEDの照明効果をうまく使うプランが増えてくると思われます。

 

インドアグリーンのコーディネイト

さまざまな観葉植物やミニ盆栽、活花(いけばな)などを自分なりのスタイルで楽しむ人が増えています。今後は植栽の色や形、テイストの違いを考慮して住まいの色彩を考える視点も大切になってくるでしょう。


オフィスの色彩

オフィスインテリアの色は、働く環境を構成する大切な要素です。仕事の効率を上げるだけではなく、オフィスワーカーの気持ちをリフレッシュさせたり、ワーカー同士の交流を活性化させる心理的効果が注目を集めています。


ワーカー同士の「交流」をサポートする色彩

職種を問わず現代のオフィスワークの大部分は、モニターを見ながらキーボードを叩くといったパーソナルな行為に集約化されています。こうしたスタイルでは「集中」が求められますが、一方でワーカー同士の仕事のプロセスや中身が見えにくくなり、コミュニケーションが希薄化するといった現象も問題視されています。

事業全体のマネージメントという観点から見ると、ワーカーのパソコンへの「引きこもり」は、「情報の共有化」や「ワーカー同士の触発」といった創造性の大きな妨げになると考えられています。その対策として、執務室を明るくオープンな空間にしてワーカーの動きを見えやすくしたり、フロア内の導線を複雑化させ、ワーカーどうしの出会いを促したりする工夫が行われています。

色彩面では、リフレッシュスペースやコミュニケーションスペースをオレンジやグリーンといったポップな色使いで構成して、会話やコミュニケーションを積極的に推進する動きが高まっています。オフィス=グレーという時代から、色彩心理を積極的に利用し仕事の流れにメリハリをつける時代へと変化しています。

 

注目されるリノベーションオフィスの色彩

古い建築物や工場、倉庫などをオフィス用にリフォームする手法は、欧米では日常的に行われています。エコの観点からも既存建築の再利用が注目されていますが、「過去の建物の記憶や時代の蓄積を新しい解釈でデザインする」。こうした新しい取り組みの中にこれからのカラーデザインのヒントが隠されているといえるでしょう。

 

建築設計会社の専門チームやオフィス家具メーカーが提案

多くの場合、新しいオフィスの設計は、事業所の新築や移転の際に、建設設計会社やオフィス家具メーカーの設計部隊に依頼します。施主は複数の会社にコンペという形で提案を募集します。提案には、執務室や会議室などのフロア全体のプランとともにCGでパースが作成され色が付けられますが、デスクやイスのほか、パネルやキャビネットなどの家具の色が重要な働きをします。特にイスの色は、クロス素材が使われており色数の豊富さが特徴です。色彩は、セクションやフロアごとの区別や、営業や研究など仕事の特性に合わせたカラーが提案されるケースも多いと言えます。


高齢者施設・医療施設の色彩

少子化により、65歳以上の高齢者が人口に占める割合は年々上昇し、2025年には30%になると予測されています。こうした超高齢化社会の進展により、介護施設や医療施設の色彩計画のニーズは今後さらに重要性が増す分野といえるでしょう。


高齢者施設は安全性の確保とともにナチュラルで親しみやすい雰囲気に

お年寄りのための介護施設などでは、床の段差をなくすなどバリアフリーデザインが採り入れられますが、色彩面では、室内の明るさを十分確保し、不便さを回避し事故を未然に防止する必要があります。また、高齢化による白内障対策としてサインなどの見え方には、明るさのコントラストをつけて見えやすくするなどの工夫も必要です。

インテリアに使う色や素材感では、金属やプラスチックよりも温かみのある木材やクロスなど出来るだけ自然な風合いの仕上げ材を使うことでリラックスした雰囲気作りだすことがポイントです

 

ホテル並みのインテリアを備えた総合病院も

「温かみのあるナチュラルなインテリア」は、医療施設全体の方向性でもあります。患者の気持ちを考えた時、冷たい無機質な室内空間は不安や緊張感をほぐすという点では不向きといえるでしょう。最近では高級リゾートホテルのようなインテリアを備えた医療施設も珍しくなくなってきました。

 

歯科医院や産婦人科医院はインテリアで差別化の時代

一方、歯科医院や産婦人科医院は、競争の時代に入っています。そうした時代背景から、インテリアデザインに気を使うところが増えています。カフェのような歯科医院やホテルのような産婦人科も見られるようになっており、こうした医療空間でのカラーコーディネイトの必要性は、ますます高まっています。

 

色彩設計を手がけるのは専門設計チーム

介護施設や医療施設の多くは、設計会社の専門の設計部隊や、病院やクリニックを得意とする設計事務所がデザインを担当します。また、大手ハウスメーカーの専門チームが設計を手がけるケースもよく見られます。

 

介護師のウエアも多彩に

「白衣」とよばれる介護師のウエアの色も白だけでなく、ピンクや薄い青緑、水色などの、清潔感があり、かつ親しみやすい印象のデザインが増えています。これらはウエアを製造・販売しているメーカーが新しいデザインを開発しています。


教育施設/幼稚園や小中高、大学の色彩

教育施設は学びの場としての快適な環境作りとともに、少子化対策を背景にした生徒募集の一環としてもその重要性が高まっています。また子供の情操教育面からも開放的でヒューマンなインテリアの色彩計画が注目されています。


カラーコンディショニングの時代-黒板が緑板になった理由

昭和20年代までは、黒板は文字通り板に黒い塗料を塗ったものが使われていました。昭和29年にJIS規格が制定され、緑(つや消し)が普及しました。これは「黒よりも目が疲れない」という理由からで、当時盛んだったカラーコンディショニング(色彩調節)といった考え方に基づいています。

カラーコンディショニングとは「疲労の緩和や事故を防止する色使い」を推奨する考え方で、主にアメリカで研究され、学校だけでなく工場や病院の手術室、車両の運転席の塗装などに採り入れられました。

 

見直される木の温かみ

高度成長期以降の学校建築のほとんどは鉄筋コンクリートで建てられ、床はプラスチックタイルやコンクリートという内装が一般的でした。最近になって住宅のインテリア同様、木が注目されています。木の床の踏み心地や手触り感、視覚的な温かみは、教育現場の内装としても改めてそのメリットが認識されています。

 

魅力あるキャンパスづくりに活用する色彩

一方大学においては優秀な学生の募集が生き残りをかけたテーマです。立地が郊外から通学の便利な都心に回帰しているのにもこうした事情があります。都市型の新しいキャンパスの傾向は、スペースのオープン化や交流の促進などオフィスとよく似たテーマが見受けられます。キャンパスのアイデンティティをシンボライズした色彩計画は今後もさまざまな形で試みられてくるでしょう。

 

建築設計会社や設計事務所・オフィスメーカーの専門部隊が提案

学校の建築設計はオフィス同様、新築や移転計画を機に行われ、発注はコンペ形式がとられることも多い分野です。設計提案にはオフィス家具メーカーの設計チームも提案を行っています。ラウンジやレストラン、カフェなど、機能の異なるスペースで色彩をうまく使い分け、リズムと統合性を考えた魅力のある空間をプロデュースするノウハウが問われているといえるでしょう。

 

担当:宮岡 直樹