個人プロフィール

依田 彩(よだあや)
1977
年神奈川県川崎市出身。獨協大学外国語学部フランス語学科卒業後、フランスに留学。「色彩の地理学」を提唱したジャン・フィリップ ランクロ氏のAtelier 3D couleur (アトリエ3Dカラー)にて研修。帰国後、都市計画コンサルタントを経て、2004年に有限会社クリマに入社。建築外装色彩計画を始め、都市や再開発地区の色彩ガイドライン策定等に従事。身近な景観形成に興味を持ち、仕事以外で地元川崎市でまちづくり活動に参加。趣味は映画観賞、旅行。

 

Q.現在のお仕事の具体的な内容は?

CLIMAT(クリマ)では、サインデザインからまちの色彩ガイドラインの策定まで色彩に大小様々なものの色彩デザインを行っています。個人的には、何か単体の色彩を細かくデザインするよりも、大まかに配色の方向性を検討する環境色彩分野の色彩計画が得意です。最近では、団地改修における外装色彩計画や中国の都市の色彩ガイドライン作成に携わっています。

 

Q.今のお仕事に携わった経緯は?

私の環境色彩との出会いはフランス留学当時に訪れたパリのまち並みです。外国で「日本人としての私」を意識していた時期です。フランスは、街並みやファッションを通じてフランス人と日本人の異なる色使いについて、深く考えさせる機会を与えてくれました。そして、「日本人もきっと、色彩に対する素敵な感性を持っているはずだ。日本の街を美しい、誇れるものにしたい。」という思いも生まれました。

フランスでの経験を活かし、街並みの形成に色彩の観点から係わる仕事がしたいと思い、帰国後、都市計画コンサルタント会社で働きました。行政や商店街と一緒になって、都市やまちづくり関連の計画策定、活動運営をお手伝いさせていただきましたが、よりまちの景観と深く関わりのある仕事に携わりたいと考え、今の会社に転職しました。

 

Q.商品などの、色を決定するまでの業務の具体的な手順・流れは?

色彩計画の進め方は、最初に述べたように計画対象やその規模によって異なりますが、例えば建築物の外装色彩計画を例に挙げるとクリマでは大まかに以下のような手順となります。

 01.計画地の上位計画等の法規制等の確認

 02.計画地と周辺の調査

 03.カラーデザインコンセプトの策定

 04.色彩計画案の作成

 05.色彩計画案のプレゼンテーション

 06.色彩計画案の調整・実施計画案の作成

 07.計画実施時の監理

 

私たちは、計画地の調査を丁寧に行い、計画地の「地域性」を重視した色彩計画づくりを心掛けています。これは、フランスのカラリスト、ジャン・フィリップ ランクロ氏が提唱してきた「色彩の地理学」の考え方を前代表の吉田愼悟が受け継ぎ、日本で広めてきた考え方です。「地域の色」を見つけ出し、あそこでもそこでもない「ここ」に合う色彩デザインを常に目指しています。

また、上位計画や前段の建築コンセプトなども参考に色彩デザインを検討し、色彩デザイナーがすべてを決めてしまうのではなく、行政、設計者といった計画にかかわる人すべての思いを形にする、みんなでつくる色彩計画を心掛けています。

 

Q.使用するカラーコード・システム、参考資料などは?

環境色彩分野では、色彩システムとしてマンセル表色系が多く用いられています。2006年の景観法施行に伴い、各地で景観計画が策定され、マンセル値で色彩の使用範囲を示す景観計画が随分と一般的になりました。マンセル表色系の認知度は上がり、理解も深まってきていますが、一方で数値基準による弊害も明らかになってきています。

色票としては、日本塗料工業会の「塗料用標準色」が一般的です。建築外装に多い、暖色系低彩度色が充実していて、カラーコーディネートしやすくなっています。

サインカラー、アクセントカラー等には、PANTONEDICカラーガイドなども使います。DICカラーガイドの中でも「日本の伝統色」などの伝統色シリーズは、デザインコンセプトに合った色を検討する際に重宝しています。

 

Q.業界特有のセオリーやタブー

タブーは特に浮かびません。セオリーの方は、「建築物や外構で色に迷ったら10YR!」でしょうか。土や砂、樹木の幹といった自然景観の基調となっているものは、暖色系低彩度色がほとんどで、その暖色系色彩の中心色相が10YR系です。そのため、沢山の色があって、色合わせに困った時は、この10YR系の低彩度色にしておくと、目立ち過ぎず、環境に馴染んで見せることができます。

 

Q.必要とされるスキル(教育・知識・技術等)、経験は?

景観は、様々な要素で構成されています。色彩は、それらの構成要素をつなぎ調和を生み出すための要素のひとつです。ですから環境色彩では、「目立たせる」というよりも全体を俯瞰できる視点をもって「つなぐ」意識を大切にしています。都市景観の構成要素は様々な素材でできています。素材によって出せる色やきれいに見える色が異なるので、素材が持つ色の特性を知ることが重要だと思います。

さらに色彩デザインは、とかくセンスの有無で片付けられがちですが、提案する色彩をどのようにして選定したのかというプロセスを説明できるような論理的思考も必要です。何事においても同じだと思いますが、特定の環境において色彩がどうあるべきかを客観的かつ論理的に説明できるスキルが大切です。

 

Q.日々の情報収集や努力している物事は?

情報収集は苦手な方なのですが、今の時代はやはり、インターネットを通じて得る情報が圧倒的に多いです。気になることがあれば、まずはネットで検索します。そしてネットを通じて情報収集した後に、その検索対象が気に入ると、当然のことながら実物を見たくなります。ですので、まちや建築物などは、可能な限り実物を見に行きます。あとは、雑誌や書籍などの紙媒体も参考にします。私は、好きなものに囲まれていたいたちなので、展覧会や映画で気に入った作品に出会うと、ついカタログなどを購入してしまいます。

あと、気になる景色はすぐ写真に収めるようにしています。良い景色や景観を言葉だけで説明するよりも写真があった方が、圧倒的に説得力があると思いますし、「また来ればいいや」と思っていても実は次はなかなか来ないものです。一期一会ですね。学生時代にいたフランスであまり写真を撮っていなかったことを後悔しています。まぁ、私の留学当時はまだデジタル写真が今ほど普及していなくて、フィルム写真だったので、撮影できる枚数も少なかったですが、画才も文才もない私には写真が大切な説得手段です。

 

Q.同様の仕事を望む学生や一般の方へのアドバイスは?

アドバイスできるほど経験豊かではありませんが、なるべく色々なことに興味を持って、チャレンジした方が良いと思います。色彩について詳しくなることは大切ですが、色彩を共有する人たちは色彩に詳しい人だけとは限りません。ですから色々な角度から色彩にアプローチできるように間口を広げておくといいと思います。これがなかなか難しいですね。

環境色彩は、小さな広告サインから都市の色彩ガイドラインまで規模も種類もデザインの形は多様です。その中で、経験を重ね自分に合った色彩へのアプローチを模索していくのも良いのではないでしょうか。

 

Q.仕事で利用する七つ道具を教えてください。

1.日塗工色見本帳(ポケット版)

 2年ごとに改訂されていますが、2年経つ頃にはいつも手垢で真っ黒です。旅行に持って行って、気になる色を気軽に

 測ることもできます。

 https://www.toryo.or.jp/jp/color/index.html

 

2.JIS標準色票・マンセルシステムによる色彩の定規

 調査などの本格的な測色時には必須です。上記1の日塗工では不十分な寒色系の測色では重宝します。高価なので、

 個人で購入するのであれば、

 https://www.jcri.jp/JCRI/seihin/TASYA/jis/jis-std-1.htm 

 http://www.sikiken.co.jp/product/cata0523.html

 

3.一眼レフデジタルカメラ

 最近はスマホのカメラが優秀なので、登場機会も少なくなりましたが、調査などで沢山撮影する際は、やはり一眼レ

 フデジカメ!下手な私でもそれなりの写真に見えます!?

 

4.CONCISEの定規

 最近は少なくなりましたが、色票サンプルのカットでは、この定規が必須アイテムでした。

 エッジ部分がステンレス加工してあり、さらに5mmの方眼状にメモリが入っていて、直角もわかりやすくなっていま

 す。いろいろなサイズがあります。

 https://www.concise.co.jp/fs/concise/c/gr235

(2021年8月に内容が新しくなりました)