デジタルコミュニケーションの色彩

「色を再現する」という行為には、「色材」が使われるのが常でした。しかし、70年代にカラーテレビが普及し、80年代にコンピュータゲームが普及、90年代にはPCが企業内に浸透、2000年代になるとPCは家電と化しました。こうした変化の中で、ディスプレイを通した「色光」による色再現が、生活の中の多くの場面を占めてきています。

 

今日(2011年)では、タブレット端末の普及によって、紙メディアの行く末を危惧する声も少なくありません。「色材による色再現から色光による色再現」という変化を、色の三原色でいうならば「CMY(シアン・マゼンタ・イエロー)からRGB(レッド・グリーン・ブルー)へ」ということになります。 この変化は、色材を混ぜて色をつくる、減法混色の世界から、光を混ぜて色をつくる加法混色の世界へと、色づくりの発想が転換されることでもあります。

 

これは、三原色を混ぜると「黒」になると思われていた常識から、三原色を混ぜると「白」になるという認識へ変わる大きな違いです。また、色材と色光とでは、色再現の領域や特性が大きく異なり、多くの場合、色材は低彩度色域の再現を、色光は高彩度色域の再現を得意としています。 2000年代半ば以降、「デジタルネイティブ(Digital Native)」 世代という言葉も使われるようになりましたが、こうした世代の色体験は、それまでの世代と比べ、色光による色体験が格段に多くなったことは間違いありません。

 

こうした色再現方法の変化、色体験の変化は、少なからず、色に対する人々の認知に影響を与えるものと思われます。そして認知の違いは、色に関する美意識やイメージの違いにもつながることも考えられます。 テレビやWEB、サイネージ、電子書籍など、ディスプレイを通したカラーコミュニケーションでクリエイティブなワークに携わる場合には、色再現の物理的特性を知り、それを活かす技術を身につけるとともに、コミュニケーションの対象として想定される人の認知特性という心理的側面を念頭にワークに取り組むことが大切になります。

 

担当:川村 雅徳