企画提案/PLANNING

は、私たちが生活する社会や環境におけるほぼすべての構成物に見られる現象で、私たちが意図的に色を付与することができる対象も数えきれない領域と数量に及んでいます。これらの事物に色を与えようとすれば、必然的に、数えきれないほどの条件や手法を考慮し、数えきれないほどの色の種類や特性、クオリティなどが求められることになります。

実際のカラー・プランニングでは、業種や分野で大まかに業務の内容が固定されますし、その業種・分野で使用される色群も当然異なるものになっています。

例えば、環境・建築分野とファッション分野では、業務の内容や色彩の領域、色に期待される役割などに大きな違いがあることは、容易に了解していただけると思われます。

この章では、非常に幅広い業務であるカラー・プランニングの中でも、特徴のある業務の内容や性格について紹介しています。


●カラーコンディショニング/COLOR CONDITIONING

カラー・プランニングという業務の中には、この業務の基本であり原型ともなったカラー・コンディショニングと呼ばれる業務が存在します。

このカラー・コンディショニング(色彩調節や色彩管理ともいわれます)は、私たちが特定の色に感じるイメージや共感覚、シンボル性などを背景に、色の心理・生理的な影響力を考慮して、主に学校や病院、工場施設などの建築物、設備などにおいて人の活動や作業の疲労感や倦怠感を軽減させたり、色の識別性を利用して作業や判断におけるミスの削減を図るといった、安全・衛生面の強化や快適性の向上を目的に展開されます。

実際のカラー・コンディショニングは、工業デザイン分野などで求められるような、製品に新しい色の魅力を付与する行為とは異なって、目的に応じて色彩の機能を利用できるような色や色群を選び出したり、効果的に配置したりする作業が中心になります。

 

カラー・コンディショニングの誕生

カラー・コンディショニング誕生の契機となった有名な話として、1925年にニューヨークの病院の外科医が、長時間の手術中に手術室の白壁にノイズである青緑の幻が見えることを問題視したことで、赤色の血液の補色である青緑色の残像を消すために、白壁を淡い青緑に変えて問題を解決した事例が挙げられます。現在の手術着が白衣でなく青緑色なのは、この動きを受けてのこと。そしてこの問題を解決した人こそ、アメリカ最初のカラーコンサルタントとなったフェイバー・ビレンその人と言われています。

このカラー・コンディショニングの考え方は、日本では1950年代から公共施設や交通機関の内外装,オフィスインテリアなどに急速に採り入れられた結果、今ではカラー・プランニングの基本的手法として各々の分野で活用されています。

 

銀座の恋の物語

カラー・コンディショニングにおける直接的な企画ではありませんが、銀座の照明における有名な話も伝わっています。

銀座通りは、明治近代化のシンボルとなり、現在でも日本を代表する高級ショッピング街として世界中に知られます。1968年、明治100年を記念する国の慶事にあわせて、銀座通りを一新しようとして、銀座商店街の人たちにより街灯の改修が行われました。銀座のシンボルと言えばですが、柳の生育に問題が生じたことや落ち着きのある街並みの演出を考慮することで、柳に代えて街路灯を次世代のシンボルに選んだのです。

銀座の街路灯の歴史は、横浜に遅れること2年、明治7年(1874)、85基のガス灯が建てられたことに始まります。その後、日本で初めての電気街灯が設置され、以来、柳と並ぶ銀座の名物になっていました。

この時、銀座商店街は、工事関係者とともに自分たちの力で銀座にふさわしい街路灯を創りあげようとしました。照明灯の形状はもちろんですが、問題になったのは発色を左右するランプの選択でした。それまで使用されていた水銀灯は、赤色成分が欠けた青白色の放射光を特徴とするため、ピンクの肌色の発色が悪く、特に赤い口紅は黒色に見えてしまうありさまでした。このため、商店街の人たちが探したのが、肌がきれいに見える光源です。ショッピングや散歩に行き交う人々の肌色を美しく照らし、口紅の色が映えることで、ロマンチックな銀座の夜を印象づけることを目的に、口紅を塗った女性に街灯の下を歩いてもらう実験やウィンドウの商品の見栄えや歩行者の顔映りを評価する実験を行った結果、当時開発されて間もないメタルハライドランプをいち早く採用することに決定し、新しい街路灯が生み出されたのです。(現在は2007年よりLEDに交換)

この街路灯により、どれだけ多くの“銀座の恋の物語”が誕生したかは定かではありませんが、この肌色や口紅の色が映える照明を求める行為は、カラー・コンディショニングの目的に沿った企画事例の一つに挙げられるものです。

 

●色の識別機能の活用

皆さんは、手帳やノートのまとめ作業に、多色のボールペンを使用されることが多いと思われます。また、事務作業においてはカラー付箋である『ポストイット』を有効に活用されているはずです。これらの活用のかなめとなるのは、皆さんご存知の色による識別機能です。このように、色の持つ優れた識別機能や誘目性などを利用した色彩による管理もカラー・コンディショニングに含まれるでしょう。

以上のようなカラー・コンディショニングの業務にあたっては、多くの人が共通の印象やイメージを持つ色を活用することも、有効な手段と言えます。

例えば、3色の交通信号のシグナルは、今では私たちの反射行動を左右するようになり、赤色や緑色のサインは、時にはデジタル画面でも停止進行の行為を私たちに強要します。

近年に定着した、傷病者の重症度に基づく治療優先度の選別行為トリアージにも、色彩が強くかかわっています。その重症度や緊急度に従った4段階には、段階毎に色が振り当てられていて、無呼吸群の黒(black tag)、最優先治療群の赤(red tag)、 待機的治療群の黄(yellow tag)、保留群の緑(green tag)と定められた、治療の優先度と色彩イメージの結びつきは、多くの人が容易に受け止められるものでしょう。



●カラー・マーチャンダイジング/COLOR MERCHANDISING

カラー・プランニングの業務の内で、おそらく一番多く遂行される業務が、固有の商品色を選定するカラー・マーチャンダイジング(MDでしょう。

一般にマーチャンダイジングとは、マーケティング用語として商品化計画とも呼ばれ、消費者の欲求を掻き立てるために、潜在的な欲求にこたえられる商品を用意し、適切な販売方法や価格設定で提供するための戦略的計画や活動を意味します。

このことから、カラーMDとは、商品を開発する際に、色彩の効果を十分に考慮に入れて、消費者に受け入れられるように、計画を立て、商品化を図っていくことになります。

この場合、最終的に消費者の目に触れる店頭やコマーシャルなどの販促媒体における色彩効果まで細かく配慮した展開が求められますし、店頭における複数の商品グループの展開や季節などの展開時期を考慮して、例えば年間を通じての物語性を発揮させるような商品の経時的カラー展開も必要とされることになります。

カラーMDは、単に製品に魅力的な色を付与するだけなく、消費者の欲する時期や場所、展開手段などに合わせて販売することで、工業製品を適切な市場価値を付与された商品として創出する業務でもあります。ファッション業界における、流行色を念頭においた当該シーズンに向けたファッションアイテムにおける新色の選定やカラー・コーディネートの提案などは、その典型的な業務といえるものです。



●カラー・ブランディング/COLOR BRANDING

前記のカラーMDの業務の内で、特定の企業やブランドのイメージを高度化ないし差別化させる目的で特徴のあるカラーを提案するような業務については、現在ではカラー・ブランディングと呼んで、一般的なカラーMDと区別されるようになってきました。

世界的に有名な宝飾品ブランドである『ティファニー』ですが、そのパッケージで有名な『ティファニーブルー』は、「ロビンズエッグブルー」と呼ばれるコマドリの卵の色。この「ロビンズエッグブルー」は、古きイギリスで、資産や土地の記録台帳の表紙に使用されていたこともあり、大切なものや高貴さ、真実などのシンボルカラーとされていました。時の『ティファニー』が、この「ロビンズエッグブルー」をカンパニーカラーとして採用した選択こそ、カラー・ブランディングの先駆的な例として挙げられるでしょう。ちなみにこの『ティファニーブルー』は商標登録されていて、PANTONEでは非公開になっています。

カラー・ブランディングとはこのように、固有の企業やブランド、商品に新しい物語を紡ぎ出すように、色彩の識別力やイメージ、共感性などを有効に活用して、唯一無二の色(複数色もありますが)を選び出し、提案する業務なのです。

実際の業務では、有名企業や著名なブランドなどを対象に仕事をする機会はあまり多くありません。日々の仕事の多くは、日常的な商品を対象に、カラーによって類似の商品群から差別化を図る作業になると思われますが、それでも実商品に自身が企画した色が採用される喜びは格別のものと言えるでしょう。



●カラー・マーケティング/COLOR MARKETING

“マーケティング”という用語は、売れる仕組みを考える戦略的企業活動を意味します。そして企業が市場に向けてマーケティング活動を行う際に、色彩を有力な手段として活用する場合には、カラー・マーケティングと呼ばれる業務が行われます。


このカラー・マーケティングは、単に販促手法を指すものでは無く、市場の色彩動向を分析し、それに対応したカラー計画、設計・デザイン、販促計画を検討し、色彩の市場効果を十分に考慮した企業活動全般を指しています。そのため、前述したカラー・マーチャンダイジングやカラー・ブランディングなどの業務もカラー・マーケティングに含まれてしまいます。化粧品業界やファッション業界で多く見受けられたカラーキャンペーンやカラープロモーションもカラー・マーケティングの一種に挙げられるものです。

このような戦略的業務になると、かなりの企業規模を有する製造業のマーケティングセクションの業務か、実績のあるカラーコンサルティング企業の構成員が請け負う業務に限られてしまいがちです。