1980年代後半、多くの企業がこぞって取り組んだ“カラー戦略”。当時を振り返りながら、その目的と役割を改めて考えてみたい。
色を戦略的に考えるということはどういうことなのか。考えられていた目的を挙げるなら以下のように整理される。
①
競合他社の動きと自社のポジショニングを明確にし、差別化を図ること
②
商品の使用環境を調べ、環境色に合う色、環境の魅力を高める色を考えること
③
商品色の発展段階や成熟度を位置づけ、必要とされる色の条件を提示すること
④
ターゲットの嗜好性やライフスタイルを調べること
⑤
先行商品や類似の商品について調べること
⑥
トレンドカラーを予測し、時代性に合った色を提案すること
⑦
自社のアイデンティティの構築に商品色が貢献すること
などなど、数え上げるときりがないが、当時はこうした項目がレストランのメニューのように、企画書に記されていた。
ではなぜ、色彩の決定に多くの時間と予算を割いて、これらのステップを踏まなければならなかったのか。その動機は3つ考えられる。そのひとつは、企業のデザイン部門や商品開発部門の知識や経験がまだ乏しく、色決定が場当たり的に行われていたため、専門家の協力が必要だったこと。2番目は、発売した商品が売れなかったときに、色のせいにされることがあったこと。3番目は、当時の組織体制にあったと考えている。色の担当者が考えた色は、課長、部長といった上長の承認が必要で、最後の土壇場で「オレはこの色は好きじゃない」といわれ、振り出しに戻るケースが少なくなかったのである。そうしたリスクを避けるため、外堀を埋めるがごとく、あらゆる項目を調べ上げて仮説を作り誰からも文句が出ない色を提案するという、言わば証拠づくりが必要とされたのである。
こうしたカラー戦略の考え方は1990年代以降も続いたが、色彩に対する企業側の知識や経験がストックされ、意思決定のプロセスも簡素化されていく。こうして調査分析に多くのコストを払うプロジェクトも次第に減っていった。
カラー戦略という名の調査と仮説を積み重ねて考え出した色と経験と勘を頼りに直感的に決めた色。どちらがターゲットの心を捉え、ブランドに貢献するのか。今となっても答えの出ない問いである。
日本カラーデザイン研究所 取締役 宮岡直樹