プロダクツの色彩

CBNサイトにおける「プロダクトの色彩」は、衣料品を除く消費財の色彩という広範囲なカテゴリーとなっています。ここでは「モノ」という言葉でプロダクトを表徴したいと思います。

モノのほとんどは、機能を求められて生み出され、人がそれを使用することで、人が恩恵を受けるという特徴をもっています。このプロセスにデザインという行為が必要となりますが、「色彩(有彩色)」はデザインにおいて本質ではありません。「色彩」がなくともモノは成り立ちます。

しかし、モノは「色彩」を得ることで、価値を向上させたり、価値を多様化させる力をもちます。デザインが関与する主な価値は、大別すると機能的価値と感性的価値があります。そして、多くの現代人はモノに対して機能的価値だけでなく、感性的価値を求めるようになっています。

モノの色彩を計画する際には、「人がそのモノに求めている価値」を明確にしておくことが重要となり、色彩は、その価値を提供すべく、機能的役割、感性的役割を果たすことが目的となります。

 

色彩の機能的価値

モノの成熟化が進んだ日本では、色彩は個人の嗜好性を映す感性要素として考えられがちですが、色彩は機能をもっています。その代表は記号性でしょう。

例えば蛇口の色彩設計において熱湯が出る部分を青、冷水が出る部分を赤にした場合、クレームの対象となるでしょう。ここまで明確なミスはないでしょうが、色が機能をもっていることをなおざりにしていると、うっかりミスをしてしまうこともあります。

以前、黄色と赤のツートンカラーの都バスが不評で塗り替える事態になったことがあります。評価の視点は単一ではないでしょうが、黄色と赤という色が、危険を想起させる色であることも一因であったといえるでしょう。都バスは公共性が求められるモノであったこともポイントです。 また、色の機能的価値として、識別性は広く使われているものの一つです。

色の違いに意味をもたせるという工夫はあまりにも日常的に行われています。鉄道の路線図における路線ごとの色分けは多くの人が恩恵を受けている色の機能です。

ただし、多様な色を見分けることは色弱者にとって困難な場合もあります。そのため、近年ユニバーサルデザインの考え方が広がるとともに、色のユニバーサルな識別性について重要視されるようになっています。

 

色彩の感性的価値

モノの普及率と「プロダクトの色彩」は深い関係です。電気炊飯器、電気冷蔵庫といった家電を白物家電といいますが、その理由は製品の色が半ば白に決っていたからです。

普及期にこれらに求められていたのは、ご飯がワンタッチで炊ける、食品を冷蔵保存できるという機能的価値でした。しかしある程度まで普及し、多くの類似機能商品が出揃うと、差別化が求められるようになります。

多くの場合、こうした流れの中で、色彩による差別化で感性的価値を付加する戦略が脚光を浴びます。

しかし、「プロダクトの色彩」を考える上で基本となるのは、人がそのモノに求めている価値を見極めることです。また、今までにない商品色を提案するのであれば、その市場規模は全体のどれくらいなのか、どんな印象、テイストの色が求められているのか等、さまざまな角度からカラー戦略を計画しなければなりません。やみくもに色物を投入しても、感性的価値を向上させるどころか評判を低下させることにもなり兼ねません

 

価値訴求における色彩

日本は優秀なモノづくりによって戦後の経済成長を支えてきました。しかし、「モノが良ければ売れる」という発想だけでは不十分なほど、多くの市場は成熟化しています。その商品の魅力を消費者に伝えること、共感を得ることがますます大切になってきています。

こうした意識の強まりによって、パッケージデザイン、デザインプロモーションというような、モノと消費者をつなげる分野においても色彩の重要性が高まっています。色彩の機能的、感性的価値は、プロダクト自体だけでなく、その価値訴求プロセスにおいても活躍しています。

 

プロダクトの素材・加工技術

日常生活の中で私たちは、完成されたモノと接して「デザイン」の良し悪しを感じています。しかし、自動車メーカーや家電メーカーといった完成品を販売している企業が、そのプロダクトのすべてのモノを作っているわけではありません。多くの部品メーカーとの協力関係の中で、一つのプロダクトが生み出されています。

商品のカラーデザインを考える場合には、着色する際の素材と加工技術という視点が重要です。デザイナーの頭の中にある抽象的、概念的色彩をモノの色として具象化するのは容易なことではありません。色を再現するには物理的制約があり、再現するための技術が必要となります。

私たちの多くは、色サンプルの中から選ぶという行為として色と接することがほとんどですが、選ぶのでなく、色を作り出すには、顔料会社、染料会社、塗料会社、塗装会社等、さまざまな企業の力が必要なのです。

 

プロダクツカラープランニングの基本ポイント

色は「無彩色」と「有彩色」に分かれますが、明暗(明度)という刺激情報しかもたない無彩色に対し、有彩色は「色彩(色相・彩度)」という刺激情報をもちます。視覚に限らないのでしょうが、低刺激の方が「飽き」がこないというのは、多くの場合、現代日本人の基本的感性と思われます。逆にいえば、強い刺激ほど飽きやすいということです。

同じ色であっても、視界にしめる面積の大きさが大きいほど、強い刺激情報になります。色彩学的にいえば、面積差による心理作用の違いということなのでしょう。

刺激情報と感性の関係に関しては、強弱という視点だけでなく、個人差という視点も大切です。自分にとってはとても好ましい刺激が、他の人にとっては好ましくない刺激であるというのは珍しいことではありません。

このほかにも「単純-複雑」「自然-不自然」など、色彩の個性とその使い方におけるポイントがカラープランニングをする上で大切になります。また、人の価値観は時代とともに移り変わります。その変化を感じ続けることもモノを生み出す上で欠かせません。


自動車の色彩

自動車は、高額な商品です。消費者は毎年のように買い替えたりしません。ですから、すぐに飽きてしまいそうな色を購入するユーザーは少数派になります。しかし敢えてそうした色を購入したユーザーの満足度は高いともいわれます。 自動車は家族で共有する場合が中心です。

色に対する嗜好性は家族といえども一致するわけではありませんので、最大公約数的な色の選択が多くなります。 ですから、日本市場では、無難な白、シルバーが多くのシェアを占めています。ベーシックな色が78割というのが、自動車のカラーシェアとなっています(JAFCA車体色調査による)。

しかし、白やシルバーといったベーシックな色においてシェアが上下したり、ウォームなシルバーとクールなシルバーで人気が変化したりといった

トレンドもあります。

自動車のボディカラーは、高い美観、高い性能(耐候性、耐薬品性等)が求められると同時に、補修が可能であることも必須です。擦って傷をつけたら直せないといった塗装は許されません。最も高いハードルが課せられた

カラーデザイン分野といえます。



家電の色彩

家電とは「家庭用電気製品」の略語。エアコンや冷蔵庫、洗濯機から電子レンジ、炊飯ジャーといった生活家電。テレビ、DVDPC、オーディオといった情報家電。家電というより個電といった方がよい携帯電話やポータブルオーディオまで、多彩な商品があります。もっとも分類が確立しているわけではありません。色がらみの分類でいえば、白物家電、黒物家電という言い方もあります。これらにおいては、使用年数、空間に占める面積、使用人数といった製品の性格によって、モノに求められる価値が異なり、その違いが商品色に反映されるのが一般的です。大づかみに捉えると、想定使用年数が長いモノや面積が大きなモノは、無彩色が大勢を占めます。個電ではおよそ無彩色と有彩色が半々程度というのが今日的カラートレンドとなっています(2009JAFCA調査)。

しかし、この傾向は不変ではありません。かつて70年代にはアボカドグリーンと呼ばれた少しグレイッシュな黄緑が大ヒットしていましたし、今日(2010年)の冷蔵庫で最も売れているシルバーも、これほど売れるようになったのは21世紀になってからです。

自動車と家電を比べて、カラープランニング上、大きく異なる視点は、家電は空間を構成する一要素であることが多いということです。単品としてのカラーコンビネーションだけでなく、空間としてのカラーコーディネーションを強く意識しなければなりません。


パッケージの色彩

パッケージデザインは、そもそもモノのデザイン分類ではなく、包装という「用途」とデザインを結び付けた言葉です。対象となるモノの種類でいえば、食品・飲料・化粧品・化粧雑貨・医薬品・電気雑貨など多岐にわたり、パッケージデザインとはこうした商品の包装・容器をデザインすることです。

 

 


自動車や家電のデザインと違って、パッケージデザインは、プロダクトデザインであるとともに、グラフィックデザインでもあります。三次元と二次元という両方を含んだデザイン概念であることが特徴といえます。

そして、パッケージの中身に関する必要な情報(商品情報)をわかりやすく伝える役割を担っていることも特徴です。後者の役割においては多くの制約を受けます。さまざまな法令の表記はその代表です。

その上で、主戦場である店頭で「気づいてもらう」「手にとってもらう」「納得してもらう」といったプロセスを通して購買をうながすことが求められます。 ですから、パッケージの色彩の基本は「気づいてもらう色」「手にとってもらう色」になります。この役割においては、視認性や識別性、誘目性、可読性、記号性といった色の効果が大切になります。「納得してもらう色」という点においては、「人がそのモノに求めている価値」を提供できるカラーデザインということになります。

例えば、食品であればシズルを感じさせるカラーデザイン、化粧品であれば洗練された美意識を感じさせるカラーデザインといった具合です。 デザインプロモーションという面からもパッケージの色彩は重要になっており、カラーデザインは深化してきています。

 

担当:川村 雅徳