色彩教育

日本で初めての色彩テキスト

日本で色彩を教育のテーマとして取り上げたのは、明治の学制発布(明治51872)に遡るようです。現在、義務教育における色彩は主に図画工作・美術の中で扱われていますが、1872年から1878年までの小学校「幾何学掛画大意

(掛画)」中学校「画学」でも、1879年から1885年までの小中学校「図画科」でも色彩は扱っていません。1873年に師範学校(後の東京教育大学、現筑波大学)が発表し、文部省が支持した小学校教則案下級小学校科目「問答」の

7級(小学4年生相当)で「色の図」を扱っています。

そして、この教師用テキストとして書かれた「小学色図問答」や「小学色図解」が数種類出版されました。「色図問答家原政紀著1873年」「色図問答 片山信行著1873年」「小学色図問答 橋爪貫一著1875年」「小学色図解 榧木寛則著1876年」などがあります。「問答」は生活の中で必要な知識を問答形式で教育した教科であり、あらためて考えてみると色彩の教科としてのこの位置付けは注目に値します。なお、榧木寛則著の「小学色図解」は白黒ですが写真版が「色彩研究VOL.24 No.1 1977日本色彩研究所発行」に掲載されています。



幼稚園

幼稚園の生活では、様々な遊びを通して生きていく力の基礎を身に付けることが目標とされています。色彩は、主に表現力を身に付ける遊びとして「お絵かき」の中で園児たちに意識させる場合が多いようです。色だけを取り出して教示する段階ではないので、色彩だけに特化したテーマはほとんどみられません。

これは小学校でも同様です。ただ、色彩は絵の構成要素であることから、色彩の立場から園児の絵画教育を考察し実践する教研活動は行われています。色彩教育研究会の研究報告や講演記録にその活動の一端をみることができます。

絵画指導する者の決心

薮田一子

成蹊短期大学教授・付属こみち幼稚園園長

色彩教育2009Vol.28 No.2

幼児期における色彩教育カリキュラム開発についての研究

大橋功

特定非営利活動法人学習開発研究所

    色彩教育2005Vol.24No.1-2



小学校

小学校教育における「色彩」は教科「図画工作」のなかで取り上げています。文部科学省の学習指導要領には、表現や鑑賞を通して造形の要素としての「色彩」を楽しむところから計画的に使うことができるようになるまでの指導を、低学年から高学年にかけて順次進めていくように指針を示しています。

 


中学校

中学校教育における「色彩」は美術のなかで取り上げられています。中学校における教科「美術」の目標として、学習指導要領には「表現及び鑑賞の幅広い活動を通して、美術の創造活動の喜びを味わい美術を愛好する心情を育てるとともに、感性を豊かにし、美術の基礎的能力を伸ばし、豊かな情操を養う。」と謳い、形や色彩を表現に生かす技術を見に付けることなどを通して、その目標を達成することを指針としています。

 


高等学校

高等学校の学習指導要領のなかで「色彩」の文言は、選択必修教科「芸術」のなかの「美術」にみられます。小学校の図画工作と中学校の美術における学習の延長として「美術の幅広い創造活動を通して,美的体験を豊かにし美術を愛好する心情を育てるとともに,感性を高め,創造的な表現と鑑賞の能力を伸ばす。」(美術)という目標が設定され、絵画・彫刻、デザイン、映像メディアにおいて、色彩などを生かした表現技能を指導するよう求めています。

なお、小学校の図画工作、中学校の美術、そして高等学校の美術における色彩教育カリキュラム研究が、大阪府教育センターのプロジェクトチームによって実施され、その成果は「色彩教育研究美術における色彩教育の在り方と系統化」(20063月)として発表されています。



専門学校・大学・大学院

専門学校は専門的職業の教育機関という性格から、ファッション系、美術・デザイン系、理美容系など色彩に関係する職業分野の人材育成を担う学校の多くは、「色彩学」や「色彩演習」などの講座を開設しています。

特に色彩検定が一般的になった10数年前から増え始めたようです。大学でも、美術、芸術、造形などの学部では共通基礎科目や教養科目として「色彩学」が開講されているところが多くあります。

しかも、かなり古くから開設されている大学もあります。また、工学部などでもデザイン科のある大学や画像系のコンピュータ実務を教育する大学、さらに家政系の大学でも色彩学の開講はみられます。大学院では、女子美術大学大学院は芸術文化専攻の中に色彩学研究領域を設けています。



社会人教育・生涯学習

職業人教育も含めた社会人教育は、色彩を専門とする研究機関や団体そして企業が各種セミナーを開催している。また、色彩の検定に合格することを目的にした学習も盛んであり、受験生を対象にした講座も多く見受けられる。

 



色彩教育関連団体

色彩教育関連団体

 

現在の色彩教育は、昭和初期に始まった活動が原型となっている。昭和16年前後には数年にわたり色彩教育研究協議会が開催され、この活動が母体になり昭和23年に新しい美術・デザイン教育のあり方を研究する団体として誕生したのが色彩教育研究会である。研究会や研修会の開催、機関誌「色彩教育」・ニューズ「カラーサークル」の発行を中心に活動している。

支部活動の拠点として九州地区および近畿地区があり、それぞれ講習会や研究会を開催している。なお、平成14年度から色彩教育研究助成事業が始まり、会員の中から応募のあった研究に対し、審査で採択された研究には研究助成費を支給し、新たな色彩教育の実践活動や試みに対して支援している。

 

担当:赤木 重文