カラービジネスの新しい潮流/NEW WAVE

近年カラービジネスの分野で、日常的なカラー・プランニング業務の中で意識されるようになった2つの動きがあります。一つは「カラーユニバーサルデザイン」で、もう一つは「CMFデザイン」と呼ばれています。

前者は“すべての人のための色彩設計”と言い換えられるもので、具体的には、色覚の個人差における影響を最小化するようなプランニング行為を求めるものです。

後者は、主にプロダクトデザイン分野において、色彩表現の高度化・深化の流れを受けることで、色彩そのものを主対象に留めるプランニングを越えて、素材や表面仕上げと一体化した色彩表現が求められる動きを受けたプランニング行為です。

ただ、これらの動きは本来の“デザイン”行為に内包されているはずのものだと思うのですが、昨今のビジネスとしてのデザイン行為があまりにも進化・拡大したことから、あらためて独立した分野として提唱され、推進されているものでしょう。


●ユニバーサルデザインCOLOR UNIVERSAL DESIGN

Wikipediaによれば「ユニバーサルデザイン」とは、「文化・言語・国籍や年齢・性別・能力などの違いにかかわらず、出来るだけ多くの人が利用できることを目指した建築(設備)・製品・情報などの設計(デザイン)のことであり、またそれを実現するためのプロセス(過程)である」と説明されています。

カラービジネスの分野では、2004年に設立された「NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)」により、“カラーユニバーサルデザイン”の呼称が一般的に使用されるようになりました。

色彩の分野では、色の見えには色覚による個人差が存在します。とはいえ、安全にかかわるサインなどでは、人によって認知に差が出ることは望ましくありません。そのため、色の見え方が一般と異なる人にも情報がきちんと伝わるような色使いが求められます。

このような潜在的なニーズに対応することで、現在では、カラーユニバーサルデザインは、地図や掲示板、路線図などの公共性や安全性が求められる分野では必須の考え方とされています。

CUDOは、「出来るだけ多くの人に見分けやすい配色を選ぶ」と「色を見分けにくい人にも情報が伝わるようにする」、「色の名前を用いたコミュニケーションを可能にする」を、カラーユニバーサルデザインの3つのポイントに挙げています。


CMFデザイン

今、プロダクトデザインの分野で「CMF」という言葉が多用されるようになりました。これは、カラー・プランニングにあたって、CMF=色(Color)、素材(Material)、加工仕上げ(Finish)を統一する表面感が大切であるとする動きであり、色は、色だけで存在せずに、素材と仕上げを包括するものとして、カラー・プランニングとしてこの3者を扱う総合的なデザインを意味します。

CMFデザインの概念は、1980年代にイタリアのプロダクトデザイナー、クリノ・カステリが提唱したとされ、2007年頃より日本でも広がりだしたました。

この動きの中、色彩団体の中では、(一社)日本流行色協会(JAFCA)が早くから啓発活動を続けています。

それというのも、1970年より自動車の国内メーカー各社のカラーデザイン担当者がJAFCAに集まって、「自動車色彩研究会」を組織し、未来に向けた自動車のカラートレンドの予測や検討、また国内の車体色の動向調査などの活動を行っています。

乗用車のボディ塗装色は、下塗りからクリア塗装までの4層以上の構造である上に、塗装も、単色の“ソリッド”、アルミなどの金属粉を混入する“メタリック”、雲母の粒子を混入することで各層ごとに複雑な反射・屈折する“マイカ”や“パール”、見る方向や光の角度により、様々な色に変化する“マジョーラ”などの各種の塗装が使用されています。

以上のような複雑な混入物や構造により、変化に富む色彩表現を求めるボディ塗装色は、結果としてCMFを総合的に検討するデザインそのものになっています。

さらに、JAFCA/自動車色彩研究会は、優れたカラーデザインの自動車を審査・表彰しようという目的で、1998年度の販売車種を対象にして1999年「オートカラーアウォード」と名付けた年間表彰制度をスタートしました。以来、「オートカラーアウォード」は、自動車メーカーのカラーデザインの向上に大きく寄与してきました。そしてこの「オートカラーアウォード」は、JAFCAにとってもCMFデザインの価値と重要性を認識する機会となり、その後の提唱活動につながったと思われます。

 

古来より日本人は“素材”と深い結びつきを保ってきました。伝統工芸の職人さんたちがその工芸品で示す精妙な色使いは、実のところ、CMFデザインの成果そのものであると言えるでしょう。

ここで誤解を恐れずに言うなら、日本人は古来よりCMFデザインに精通し、日常生活の領域においてさえ世界トップレベルのCMFデザインを行ってきた歴史を持っているのです。そう考えれば、CMFデザインは、日本人の感性に沿うものとして、日本の得意分野として言い切れるものと思えます。