個人プロフィール

宮岡直樹(みやおかなおき)

早稲田大学第一文学部東洋哲学専攻を卒業後、(株)日本カラーデザイン研究所入社。住宅建材・外観、プロダクト製品、ステーショナリー、オフィス家具、建築外装、景観色彩などの分野を中心に活動。2010年から2019年まで代表取締役。2011年から2016年まで中国・南開大学濱海学院芸術学部客員教授。現在は取締役として重慶PLANとアライアンスを組み教育事業を中心に中国でのNCDシステムの普及に力を入れている。企画監修書籍に「配色歳時記」「心を伝える配色イメージ」(いずれも講談社刊)などがある。趣味はガーデニング、料理、釣りなど

 

.現在のお仕事の具多的な内容は?

NCD全体としては、クライアントから依頼された課題に対するソリューションの提案、トレンド情報の発信、オリジナルのセミナーの運営などの業務を行ってきました。私の最近の活動としては、2018年にライセンス契約を結んだ中国の企業と協力し、中国でのセミナーや講演の実施、翻訳出版事業などに力を入れています。

 

.今のお仕事に携わった経緯は?

学生の頃はコピーライターブームで、広告代理店が花形の就職先でした。自分は、絵を描くことに熱中していたので美術やアートと接点のある就職先を探していました。就職課のファイルの中から偶然目にとまって試験を受けた企業のひとつがNCDです。畑違いの専攻にいましたが、学部、学科は問わないということで入社できました。当時は、色の情報企業は非常に珍しく、ベンチャー企業として新聞に大きく取り上げられていたこともありました。

 

.商品などの、色を決定するまでの業務の具体的な手順・流れは?

クライアントの担当者からヒアリングを行い、企画書と見積書を提出します。初めてのクライアントの場合には、見積書の金額と先方の予算が折り合わず企画書の内容を修正し、見積書を作り直すことも珍しくありません。先方の稟議が下りれば、プロジェクトの開始となります。1980年代~90年代は、競合の分析、使用環境の分析、ターゲットのライフスタイルの分析など、提案の根拠となる調査分析と仮説の共有化にウエイトがありましたが、最近の傾向としては、そうしたリサーチに時間と予算を費やす案件が減り、結論のみを求められる傾向が強まったと感じています。背景には、企業の意思決定プロセスが変わり、基本的な情報については誰でもネットでアクセスできる環境になったことが要因ではないかと考えています。

 

.使用するカラーコード・システム、参考資料などは?

独自に開発した1093色のHue & Tone System、低彩度チャート、マンセルシステム、PANTONEなどのほか、景観や建築の場合は日本塗料工業会の塗料用標準色が必携となります。

 

.業界特有のセオリー・タブーなどは?

分野ごとに知っておくべき常識のようなものは存在すると思いますが、世界的にみてもカラー業界全体で使われている「確立された方法論」というものはないと思います。表色系ひとつとっても、日本ではマンセルシステムが広く使われていますが、中国や韓国ではほとんど普及していません。むしろ普遍的な方法論がないというところにビジネスチャンスがあるのではないかと考えています。新しい方法論の創出は新しいビジネスのタネになるからです。それはNCDが感性を測るモノサシとしてカラーイメスケールを考案し、色彩計画やマーケティング、教育などに応用してきた道のりと重なります。

タブーといえば、「他人の足を引っ張らないこと」が不文律になっています。いろいろな団体、企業、個人が活動しているカラー業界ですがそれぞれが固有の「流儀」というものをもっています。中には時々「どうして?」といった疑問をもつこともありますが、それを公然と表明したり、批判したりすることはタブー視されているのではないでしょうか。むしろ、需要があるならいろいろな考え方があっていい、くらいに構えていた方がいいと思います。

また、私が入社したころは、色を扱う仕事は限られた専門家が手掛ける業務でした。色の検定試験が普及しネット社会になって以降、色に関する知識が一般化、大衆化し、いつからか「女性の仕事」としてのイメージが定着し、特に珍しいものではなくなりました。多くの商品が成熟化し色の差別化が必ずしも競争力とならない時代になり、カラービジネスがコモディティ化したことは、現場にいた人間なら多かれ少なかれ感じていることかもしれませんが、あまり語られていないような気がします。

 

.必要とされるスキル(教育・知識・技術等)経験は?

感性と論理性という両面が求められる仕事です。特に、色という主観的で情緒的な現象を論理的にとらえ、それを説明する能力が問われます。最後は、「なぜこの色でなければならないのか」をあの手この手でクライアントに説得するスキルが必要になるわけですが、3年、5年と経験を積むうちに、分野や技術などを含め自分の得意、不得意が見えてくると思います。得意なスキルを伸ばせるような仕事に恵まれれば成長も早いかと思います。

 

.日々の情報収集や努力している物事は?

長年の間に、世の中の動きや流れを色やイメージという側面から眺める習慣が身に付きました。創業者の小林重順が現役の頃は、口癖のように「視野狭窄に陥るな」と叱咤激励され、一緒に海外に出かけ視察に同行したこともありました。当時は、海外旅行がブームだったこともあり、ヨーロッパを中心にいろいろなところを見て回りました。そうした経験はのちの仕事に随分役に立ったと思います。

 

.同様の仕事を望む学生や一般の方へのアドバイスは?

カラービジネスは今後、成長が期待される分野なのかという、大局的な時代の見極めが大切だと思います。将来を見通すのは非常に難しいのですが、トレンドが下向きの業界・業種では頑張っても結果がついてきません。下手をすると企業そのものがなくなってしまう世の中です。現状と少し先の可能性を知るためには、自分が入りたいと思った企業や組織、関連団体のホームページを見て、継続的にリクルートを行っているか、新しい市場やビジネスを開拓している様子がうかがえるか、などを確認してみるとよいと思います。できれば募集をしていなくても直接訪問して採用担当者などに話しを聞いてみると実情がよくわかるはずです。その上で色の仕事に就きたいと思うか、色以外の仕事で色の知識を生かしたいと思うかが見えてくると思います。いずれにしろ、どこへ行っても通用する自分のスキルがあれば、色との相乗効果が期待できます。色の仕事に限定して就職先を考えると間口はかなり狭くなりますので、色とかかわりが深い仕事という見方で仕事を探す方が現実的で将来の可能性が広がると思います。

(2021年8月に内容が新しくなりました)