管理調整/MANAGEMENT

色の仕事においては、色を視る仕事と言えるような色の管理、調整を行うマネージメントも重要な業務に挙げられます。

現在、カラー・マネージメントと言えば、デジタル画像を扱う分野で、取り込んだ画像と出力される画像の色が異なることがないように、色彩面での統一を図る意味で使用されることが多いと思われますが、ここでは、色を管理する仕事と幅広くとらえて解説しています。

色は、個人個人の感覚によって認知されるものですので、芸術分野はさておき、産業分野においては、色名のような曖昧な表現で他人に伝えることは避けなければなりません。そのため、景観色彩のカラーガイドラインにおいては、マンセル表色系による色の指定や管理が主流になっています。

実際には、私たちが日々使用するほとんどの生活財では、色の伝達面だけでなく、その設計、製造、検査などの各工程でしっかりとした色彩の管理が行われていて、多くの人材がそれらの業務に従事しています。

具体的なカラー・マネージメントの業務としては、色の測定・測色や評価だけでなく、基本となる目的別色票の体系化・製作や管理基準の設定、評価用の限界色票の開発などが行われています。


●色を再現する/COLOR MATCHING

色を管理する業務の多くは、印刷や塗装、工業製品などにおいて、求められる色、目標とする色をできるだけ精確に再現する作業となるでしょう。そして一般的には、このような精確な色の再現を目指す色彩管理作業はカラー・マッチングと呼ばれます。

このカラー・マッチングは、グラフィックなどの印刷分野やテキスタイルなどの染色分野では基本的な作業で、試し刷りや試験染色などにより、慎重で精確な色校正や色修正を行っています。ブランドロゴの色が印刷物によって変化したり、ユニフォームの色やベーシックなファッションアイテムの色が納入時期によって異なることは、当然避けなければならないからです。

珍しいところでは、和菓子の製造にたずさわる企業でも品質管理に色見本が使われているケースがあります。草もちに使われるヨモギは、ひなたと日陰とでは葉緑素の量が異なるため、基準となる色見本を製作し、それにあわせてヨモギの配合比率を変えることで同じ色となるように管理されます。そして、このような作業は、食品分野だけでなく、例えば農業分野においても見受けられ、適切な収穫に向けて、例えば葉色のカラーチャートや果実の成熟色のカラーチャートが用意されることになります。


●限界色票

前章で紹介した葉色や果実のカラーチャートは、「限界色票」と呼ばれて、実際の色彩管理において多用されている手法になります。これらの限界色票は、色相、明度、彩度などの色ずれの境界になる許容限界色を用いて、試料の色をこれらの色票と肉眼で比較することで、合否を判断するものです。

人の眼は、色比較において高度な識別能力を発揮しますので、この限界色票を用いる手法は、一般的な商材や製品の色彩管理で利用されます。ただ、あくまで「人の眼」という制限が存在しますので、より精確な色彩管理には、当然測色計が必要になってきます。

 

果実の成熟度判定のためのカラーチャート


●色をマネージメントする基本ツール/COLOR SYSTEM

人が色を認識して、さらに他人とその色の認識を分かち合うためには、その“特定の色”を伝えなければなりません。そこに色の現物が無ければ、それに代わって色を表す言葉が必要になります。

おそらく「色名」は、最初に人類が作り出した“色のマネージメント手段”と言えるでしょう。けれども色名は、民族や言語、生活環境における固有の文化的特徴が反映されるために、共通の色彩認識を有する手段には適しません。そこでこの課題を克服するために生み出された手段が、色の体系と言えるものでした。

私たちは、マンセル表色系に代表されるようなカラーシステムのおかげで、色の記憶や伝達、再現、管理などが可能になり、容易にカラー・マネージメントを行うことができるようになっています。

中でも、マンセルやPCCSのような色票系のシステムは、人の持つ色彩知覚の基本特性に沿う、大変わかりやすい体系ですので、広くカラービジネスの現場で活用されています。

その一方で、カラービジネスの世界では、デジタル機器の普及によって、「色材による色再現から色光による色再現へ」という変化も生じました。この「CMYからRGBへ」の変化により、色票系の色体系に加えて、光源色にも物体色にも適用できるCIE 表色系も広く使用されるようになっています。

 

●カラースキムの整備/COLOR SCHEME

日常の色彩業務においても、小規模ながらカラーの体系を作り出す仕事は、日常的に求められます。

例えば商品色のカラーバリエーションを選定する業務などは、今では、ファッション分野や家電、文具はもちろんですが、工具や工事機器などの分野でも求められるようになりました。

このような、特定のイメージや印象を創出するためのカラーバリエーション存在の背景には、「カラースキム(COLOR SCHEME)」と呼ばれる固有の色彩群を創出する業務が必要です。

カラースキムは、一般的に、色の心理・生理的特性などを考慮して検討、選定されるもので、カラースキム内の色を使用する限りは、求められるイメージや色彩効果が得られるように設計されます。

この「カラースキム」は、多分にコンセプチュアルな意味の強い名称と言え、実際に選択や比較、測定などの作業に用いる色票そのものは、「カラーパレット(COLOR PALETTE)」や「カラーチャート(COLOR CHART)」とも呼ばれています。

 


 

●田中一光氏と原研哉氏が監修した『カッティングシート®』のカラースキム

装飾用シートを代表する㈱中川ケミカルの『カッティングシート®』は、色相とトーンのカラーシステム上に展開される273色の構成を持つことから、色の知見をお持ちの方なら、体系立った色彩計画や自由なカラー・コーディネートを可能にします。

実は、これほど多数の商品色がHUETONEのシステム上で展開されることは大変まれな存在と言えます。一般的には、ランダムな売れ筋色の積層によって商品色ラインアップが構成されますので、商品色をカラーシステムに投影すると、必然的に不規則なポジションを描くことになります。

このカッティングシートは、1986年に田中一光氏の監修で100色が選定され、2015年には原研哉氏監修のもとで264色がラインアップされました。

このHUETONEに基づく奇跡のカラーシステムの創造は、COLOR MANAGEMENTの理想的な仕事の一つと言えるものです。

 


 

 


 

●色彩測定

「色を測る」ことを仕事にしている人は、直接カラー・プランニングを遂行している人々に比べるとかなり少ないと思いますが、カラービジネスにおいて、測色が重要な仕事であることは、前述してきた通りです。

色の再現やリサーチなどの業務では、最初のステップに挙げられます。とはいえ、個人のカラーコンサルの事務所などで、測色計をお持ちの方はあまりいらっしゃいません。一般的には、精確な機械測色を行わなくとも、目視による測色で解決できる業務が多いでしょう。ただ、工業製品に関しては、JIS(日本産業企画)で決められた厳密な色彩管理が必要になるものが多いので、機械測色が前提になってきます。

以上のように、JIS制度に基づいた工業製品の製造に関わる分野では、目視による色彩識別能力の他、機械測色を含めた測色技術や色の数値管理技術が求められることになります。

このような製造分野で必要とされる色彩管理の知識と経験については、独学取得は難しいかもしれません。

この分野では、(一財)日本色彩研究所が、製造における設計・開発計画、製造、検査、販売・サービスの各工程に関する必要な色彩知識・実務を有する技術者を『色彩管理士』として認定するとともに、養成の研修を実施しています。

興味のある方は、お調べになることをお勧めします。