CBNからの覚書き

韓国人デザイナーとのガチンコ勝負-先方がぶつけて来た色とは

2011年、韓国の大手電機メーカーから複合機とプリンターのカラー提案の仕事が舞い込んだ。先方の部長から「外観の色をなんとかしろ」と指示があったそうだ。日本の製造業の国際競争力が低下する中で、当時も今も複合機・プリンターの世界シェアは日本勢が優位を誇る。2000年代にはK社から黒を基調とした斬新なデザインが発売され、世界的に注目を浴びていた。

プロジェクトが始まって間もなく、先方から「うちのカラーデザインの主席デザイナーが調色した色です。どうですか?」と言われて、見せられた色がある。

色名で表現すれば、彩度の低いグレイッシュなブルーで、見たときはあまり新しいという印象を受けず、むしろどこかで見たことがあるだと引っ掛かりを覚えた。プロジェクトは、外観のイメージスケール分析や海外のオフィス事例の分析などに進みつつあったが、そんなある日、コンビニに立ち寄ったところ、C社の複合機が目に入った。それを見た瞬間「あの色だ!」と思った。その複合機のコントロールパネルの色が先方のデザイナーが調色した色とよく似た色だったのである。

後日、預かっていた色見本を実物の複合機に照らし合わせてみると、色相、明度、彩度ともに瓜二つの色であった。先方のデザイナーはC社のこの色を知っていたのか?いや、知っていたら同じ色は提案しないはずだ、ということは容易に察しがついた。

1962年にF社が日本で初めて普通紙複写機を発売して以来、C社、R社など次々と競合が参入し、外観の色を展開してきた。ある時代はオフィス家具が、ある時代はパソコンなどのIT機器が色決めのヒントとなった。また、複合機やプリンターは共用品ということもあり、各社で使われてきた色はそう大きくは違わない。その歴史を紐解くと時代時代の色がまるで地層のように積み重なっていることがわかる。メーカーの外観担当のデザイナーであれば、自社や競合他社の色はよく研究しており、世代交代により役割を終えた色、新しい色の方向性はよく知っている。

一方韓国では、そうした歴史の積み重ねがない。新しいと思って提案した色が日本では何年も前から使われてきた色であったという事実に軽い衝撃を覚えた。

先方が新しい戦略色として提案してきたグレイッシュブルーとC社のコントロールパネルにグレイッシュブルー。ともにデザイナーが発想した動機や思考回路には共通性があったに違いない。時代が少しずれていたといってしまえばそれまでなのだが。

結局こちら側の提案は限りなく黒に近いブラウンと白のツートンとなり、幸いにして採用に至ったが、この体験は、数あるカラー提案の中でも、忘れがたい仕事のひとつとなった。

 

                            日本カラーデザイン研究所 取締役 宮岡直樹