個人プロフィール

菱山 浩昭(ひしやまひろあき)
1970
年埼玉県大宮市(現さいたま市)生まれ。19913月育英工業高専(現サレジオ工業高専)工業デザイン学科卒業。同年4月カシオ計算機(株)入社、デザインセンター配属。20114月より現職。デジタルカメラ・電子辞書・電子楽器・レジスター等、時計ジャンルを除く全プロダクト商品のCMFデザイン()に携わる。現在、CMFデザイングループのリーダー。携帯電話は2000年発売の初号機(GzOneC303CA)より現行(GzOneType-L)カシオモデル全機種のCMFデザインを手掛ける。JAFCA Auto Color Awards CMFデザイナーズセレクション審査委員。元JAFCAインテリア・プロダクツ部会専門委員。趣味はパン作りと、美味しいパン屋さん巡り。陶芸(益子焼)。青山の『こどもの城』でモノ作りを通して子どもと接するボランティアにも従事。

CMFデザイン=Color(色)Material(素材)Finish(仕上げ)
プロダクトデザインに於けるカラーは単純に「色」単体で語られるものではなく 「素材」と「仕上げ」も含めた三位一体が五感に響く重要なファクターとなります。

 

. 現在のお仕事の具合的な内容や、色決定までの手順や流れは?

主なカシオ商品のCMFデザインのディレクションを行っております。【量産機種業務】

機種のラインアップ計画の基、デザインコンセプト(CMFデザインコンセプト)の立案/形状担当のデザイナーとCMFデザイン担当のデザイナー間でデザインの方向性の確認/具体的なCMFデザイン検討/デザインモックアップ作製/関係部署(商品内容によって社外の場合もある)へのプレゼンテーション/デザイン決定/量産CMF指示(メーカーとの調整・色立会い・量産品検収等)/プロモーション・販促物等、関係部署との連携も行います。
CMFデザインは非常に幅広い業務内容です。お客様へストレートに作り手側の想いが届くよう関係部署との連携も重要です。また個々の商品によりCMFにかけられるコストが異なります。コスト内で最適&最大限効果のあるCMFを提示するよう心掛けております。「お金(コスト)をかけなくても魅力的なカラーは提案できます」その商品特性を最大限活かしたメリハリのあるCMF”が求められます。

量産業務とは別に先行してCMF開発を行っております。【先行開発業務】

新しい技術・素材開発を推進しています。試作メーカーでのトライアルを通じて量産検証まで行っております。
いざという時に使える切り札的なCMF”のストックが大切です。

 

. 今のお仕事に携わった経緯は?

もともとプロダクトデザイナー志望としてカシオに入社しました。入社後、約7年間は他のデザイナー同様にスタイリングも担当しておりました。その頃のカシオのデザイナーは形から色/処理まで1人の担当者が行っておりました。(我々のような情報・家電商品を扱うプロダクトデザインは、車のデザインのようにエクステリア/インテリア/カラーとしっかりと分業されていない方が多いと思います)

当時、そのようなデザインワークの中、私自身、スタイリングを完成させるのにパワーがかかり、もともと好きでした色/処理の部分にあまり時間を費やす事が出来ずにおりました。そんな姿を見ていた当時の直属の上司が菱山君は色専任でやってみたら〜と推奨してくれたのです。その上司は、どのデザイナーにどんな才能があるかを見極めて新しい可能性を引き出してくれる人でした。とても感謝しております。

その後、より色/質感がプロダクトデザインでも重要となり、携帯電話をはじめ様々なジャンルの商品に携わり、多くの経験をさせて頂きました。そのノウハウを一昨年より組織化されたCMF専門のセクションでメンバーと共に日々切磋琢磨しております。

 

. 使用するカラーコード・システム、参考資料などは?

『具体的な色出しの時に使用する一部』

  • 自社オリジナルのカラーサンプル
  • Natural Color System NCS
  • PANTONE-TPX
  • Effect Pigments General Color Card
  • RAL
  • マンセル表色系

色見本をそのまま使用する事は殆どありません。(色作りのベースとして各色見本を使用しております/そしてイメージに近い色をオリジナルで作り込んで行きます)

『イメージ出しの時に参考にする一部』

  • JAFCA季刊誌『流行色』
  • 各種トレンドブック
  • ファッション誌/デザイン誌

. 業界特有のセオリーやタブーは?

グローバル化が進み多くの国/地域の人達がカシオ商品を手にします。気をつけている事の1つにタブー色がないかどうかという事です。宗教的な理由など日本とは全く異なる事情がある場合があります。この点は現地のネットワークから情報を得るなどして注意しております。また商品コストに見合った色出しは常に意識しております。どんなに美しいであってもコストに合わなかったり量産性に欠けるものでは正しい判断とは言えません。

 

. 必要とされるスキル(教育・知識・技術等)、経験は?

物事を幅広く捉える考え方/現実のを実体験して感性を豊かにする心が大切です。「色彩の基礎知識」などもあった方が良いですが基礎の基礎に過ぎません。多くの事がリアルに体験して、その体験を通じて気付き、学ぶ事が多いものです。パソコンのモニターで見ているは参考に過ぎません。「赤」や「青」という単純な色域の話しではなく「どんな赤なのか?」「どんな青なのか?」が重要な時代になっております。

 

. 日々の情報収集や努力している物事は?

業務で携わっている商品ジャンルとは異なるジャンルのモノを意識して見ております。例えばオートモービル(車/バイク)のCMFやお店のショーウインドウに並ぶ最新ファッション、また個人的に興味の高い伝統工芸品やスイーツなどをチェックしております。興味が沸き、気になると、それはどのように作られているのか、どんな味(スイーツの場合)がするのかと、より深く知りたくなります。

また自然からインスピレーションを得てカラーに表現する事があります。「照りつける夏の太陽の力強さを感じさせるオレンジ」「新雪に覆われた朝の雪原のような無垢なホワイト」等々。日本の四季折々の美しい自然の表情を体感するようにしております。

 

. 同様の仕事を望む学生や一般の方へのアドバイスは?

毎年、次から次へと新商品のCMFデザインを行いますが、その事がアタリマエのような仕事のスタイルにならないよう心掛けております。特に人々の五感に最も響くのが「CMFデザイン」です。モノ作りの楽しさ、その商品を喜びを持って使って下さる人々がいる事を嬉しく思います。特にカラーについては、誰でも何でも語れてしまいます。何故そのカラーが良いのかを論理的に語れる事が求められます。美しく、インスパイヤーされるは世の中に沢山あります。五感を研ぎすませて、そのヒントを掴んで下さい。

 

. 仕事で利用する七つ道具を教えて下さい。

  スケジュール表

    機種推進からイベント・展示会などあらゆる情報を記載。

  メモ

    RHODIAのメモ帳を使用。気になる事や言葉をその場で書き留める。

  マンセル表色系

    グレースケールをコンパクトにしたものをオリジナルで作り常に携帯しております。

  D65「光源の演色性検査カード」

    色を正しく見る環境には配慮しております。

  ライト付きルーペ

    光輝材の種類や粒形を確認します。

  Cleaning Cloth(拭き布)

    デザインモデル/サンプル/商品などの色・質感を正しく確認する為に汚れや指紋などを拭き取る時に使いま    す。

  デジカメ

    日頃、気になったモノや配色の綺麗な商品・美しい自然の表情などを撮影します。